世界を濡らす、やまない雨


課長が駅とは反対方向に歩きだす。


私は彼に操られる人形のように、意志に反して歩かされた。


課長の隣で歩く私は、自分がきちんと呼吸をしているかさえわからなかった。


「少し遠いけど、イタリアンのお店でとても雰囲気がいいんだ」


課長が私の方に顔を向けながら穏やかに笑む。

彼は微笑みながら、他にも何言か私に話しかけていた。


けれどただ歩かされているだけの私の耳に、彼の会話の内容はほとんど入ってこなかった。


会社を出て五分ほど歩いたところで、課長はメイン道路に身体を乗り出しながら右手を高く挙げた。


課長のサインに気付いた流しのタクシーが、尾灯を点滅させながら私達から少し通り過ぎたところで止まる。


止まったタクシーの傍に課長が歩み寄ると、後部座席のドアがゆっくりと開いた。


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