世界を濡らす、やまない雨
「道木さん」
そのとき、うしろからもう片方の手首を誰かにつかまれた。
「道木さん、どこ行くんだよ。今日、大学の仲間と飲み会だろ」
若い男の声が私を呼び止めた。
聞き覚えのない声に、課長と共に振り返る。
そこにはスーツ姿の若い男が立っていた。
短かすぎることも長すぎることもない、すっきりとした清潔感のある髪型。
きりっとした真っ直ぐな瞳。
ぱっと見ただけで爽やかな印象を与える彼の顔に、おそらく見覚えはない。
なぜ、私の名前を────?
不思議に思い、目を細める。