世界を濡らす、やまない雨


これ以上怜の機嫌を損ねないように、私は出かけたままの服の上からエプロンをかけた。

本当は服が汚れないように部屋着に着替えたかったけれど、今は少しでも早く夕食を作って怜に機嫌を直してもらうことのほうが重要だった。

私は怜のほうを振り向かず、料理を作る手だけを動かすようにした。

怜の機嫌が直るまで、私は余計なことは喋るべきではない。

機嫌が悪いときに余計なことを話すと、怜は時々手を出してくる。

一度、不機嫌な怜に特に強く殴られたことがあった。そのときは頬が真っ赤になって、冷やしてもなかなか腫れが引かなかった。

それ以降、私は怜の機嫌が悪いときに余計なことは言わないように気をつけている。

料理を作っていると、不意に背中に視線を感じた。

恐る恐る振り返ると、背後に立っていた怜と目が合う。

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