世界を濡らす、やまない雨
*雨下*
Ⅰ
課長にタクシーに押し込まれそうになったところを角谷に助けられた翌日。
私は少し緊張しながら会社に行った。
私が会社に着いたときにはフロアにはちらほらと他の社員達の姿があり、その中には課長の姿もあった。
「おはようございます」
背後にドアが閉る気配を感じながら、あまり通りのよくない声で挨拶をすると自分のデスクで仕事をしていた課長が顔を上げた。
一瞬だけ課長と目が合い、慌てて反らす。
しばらくしてそっと課長の様子を窺うと、彼はもう私を見ていなかった。
ほっと胸をなでおろし、そそくさと自分のデスクへ向かう。
その途中、既にデスクに座ってパソコンを前に忙しなく手を動かしている有里の背後を通り過ぎた。
「有里、おはよう」
彼女の背後を通り過ぎるとき、斜め後ろから声をかける。
ところが、挨拶の代わりに返ってきたのは忙しくパソコンのキーボードを打つカシャカシャという音だけ。