世界を濡らす、やまない雨
私が挨拶をすると、有里はいつも仕事の手を止めて振り返ってくれる。
けれど、今朝の有里は私の言葉に少しも反応しなかった。
聞こえなかったのだろうか……
首を傾げるも、私はさして気にせず有里の後ろを通過した。
有里に聞こえるようもう一度声をかけることも、肩をたたいて振り向いてもらうこともしなかった。
あとになって思う。
あの瞬間、私がもっと積極的に有里に関わろうとしていたら何かが変わっていたかもしれないと……
けれど私はそうせず、何の疑問も抱かずにデスクに座ってその日の仕事に取り掛かった。