星屑チョコレート【短】
「あ、繭さん」


「え?」


耳に馴染んだ声に呼ばれたのは、オフィスを出た直後の事だった。


「お疲れ様です」


言い終わるよりも早くあたしの手首を掴んだ橋本君は、直帰したはずの彼がここにいる事に驚いているあたしの体を引っ張る。


「ちょっ……!」


「送りますよ」


「何で!?」


「この為に待ち伏せしてたんで」


色々な意味の“何で”に、橋本君は少しばかり見当違いな言葉を口にしつつ、待たせていたらしいタクシーの後部席にあたしを押し込んだ。


それから状況を把握出来ずにいるあたしを余所に、彼はどう考えても我が家では無い住所を運転手に告げた。


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