Octave~届かない恋、重なる想い~
Prologue
「雅人、と呼んでください、お嬢さん」


緊張する私の隣で、その人は穏やかに微笑んでいた。


「わ、私も結子って呼んでもらえますか?」


 お嬢さん、だなんて。

 両膝の上に置いた手のひらを握りしめて、私もお願いする。


「では結子さん」

「あの、雅人さんの方が私よりずっと年上ですから、さん付けもちょっと・・・・・・」


 そう言うと、ふふっと面白そうに笑って、私を見つめてきた。

 周りを少しだけ気にするような仕草。


「それじゃあ、周りに誰もいない時だけ『結子』って呼ぼうか?」


 悪戯っぽく囁くその声は、同級生の誰よりも低くて、艶っぽい。

 その声が私の心に届いた瞬間、心拍数と体温が一気に上昇した。

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