Octave~届かない恋、重なる想い~
連れてこられたのは、展望レストラン。
ちょうど混み合う時間だったけれど、運良く窓側のテーブルに座ることができた。
コース料理をお願いしてから、雅人さんが話を促す。
「それで、お父さんの跡を継ぐのはどうしても嫌なんだね」
「はい。私は政治家向きじゃないです」
「確かに結子さんは表に出るタイプではなさそうだ。控えめで穏やかな君が、選挙カーで力いっぱい怒鳴ってる様子は思い浮かばないね。弟の敦史君は、小さい頃から物怖じしないはっきりした子だったけれど」
「そうなんです。敦史は父の跡を継いで市議会議員に立候補するのが夢です。そしていずれは、父も目指した市長選に出たい、なんて言ってます」
「敦史君の目標は市長、なのか……。
だとしたらここでの地盤は守っておきたいところだな。でも突然こんなことになって、後継者が敦史君だと間に合わない、それで結子さんに話が回ってきた、と」
水の入ったグラスを持って少し口に含みながら、雅人さんの顔を見つめる。
彼もこちらを見て、一瞬微笑んでくれた。
十年前と変わらない話しやすさは、包容力の現れ、なのだろうか。