Octave~届かない恋、重なる想い~

 ……伯父の会社である宇佐美運輸は、毎年市内の優秀な高校3年生3名を奨学生として選んでいた。

 学費を全額負担し、生活費として月に10万円の支給がある。

 その代わり、長期休業中、可能な限り宇佐美運輸でアルバイトをすること、大学卒業後はこの街か、せめて北海道へ戻ってくること、つまり地元経済に貢献できる人になるといった条件があるけれど、毎年この奨学生になりたい高校3年生はたくさんいる。

 国公立大学に合格した人の中から、高校の成績、出席率、面接と小論文による選考の結果によって3名が選ばれる。

 雅人さんも、その中のひとりだった。その恩もあって、宇佐美運輸に就職したのだと聞いた。


「そのお蔭で、今の『私』があります。まあ、選挙に落ちたらプー太郎なんですけどね」

 
 それまでしーんとして真面目に聞いていたみんな、失笑。

 もちろん私も。するとまた、雅人さんは私へ視線を落とし、にやりと笑った。


「そこで笑っているうちの妻も、よく私のような男を選んでくれたと思います。彼女の慈悲深い愛情が、私をこの場へ立たせてくれたのです。……妻を、ここへ」

 突然、私が選挙カーの上に呼ばれた。

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