Octave~届かない恋、重なる想い~
『先生』という仕事
自宅マンションへ二人で戻ったときにはもう、深夜2時を過ぎていた。
事務所で夕食、いや、夜食は済ませてきたけれど、既にそれからかなり時間が経っている。
「雅人さん、何か召し上がりますか?」
私はまっすぐキッチンへ向かい、カウンターごしにリビングの雅人さんに呼びかけた。
「結子は疲れているだろう。早く寝るといい。俺は少し何か飲んでから寝ることにするよ」
いつの間にか、私の名前は自然と呼び捨てられるようになっていた。
選挙の応援で、後援会や支持者の間を歩くうちに、八歳も年下の私に「さん付け」ではおかしいというのもあると思う。
しかし、初めて会ったあの日
『周りに誰もいない時だけ、結子って呼ぼうか?』
そう言いだしたのは雅人さんだった。それを覚えていてくれてのことだったら、どんなに嬉しいだろう。
「私もちょっと何か飲みたい気分ですから。軽くつまめるものを用意しますね」
「そうか、じゃあ、酒は俺が用意するよ」
雅人さんは部屋着に着替えてから、スパークリングワインを用意してくれた。
私も冷蔵庫に入っていたカマンベールチーズとスモークサーモンを小皿に並べる。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様」
グラスを掲げ、簡素な慰労会が始まった。