Octave~届かない恋、重なる想い~
抱き合っていたのは、あっという間だったような気もするし、長かったようなぬくもりもあった。
「夫婦の絆を深めたところで、これを飲み終わったらもう寝よう。明日8時頃、投票しに行かないとな」
雅人さんが私を解放して、またすぐに距離を置いてしまった。
私は恥ずかしさと、ちょっと自棄酒でも飲みたい気分で、目の前にあったグラスを一気に空ける。
おつまみを食べることなく、そのまま摂取したアルコールはかなりの効き目だった。
選挙戦が終わった開放感と疲労感、さっきのぬくもりへの恋しさ、それから……。
「雅人さん、私の代わりに出馬してくださって、ありがとうございました」
伝えたい言葉は、他にあったはず。でも、今はこれが精一杯だった。
すると、雅人さんも自分のグラスを置いて、微笑んだ。
「まだ早いよ。落選してたらどうする?」
「大丈夫だろうってみんな予想しています。雅人さんはおそらく初出馬組の中ではトップ当選じゃないかって……」
「だといいけどね。選挙は開票してみないとわからないよ。某大統領選挙みたいにさ」
私の頭を軽く撫でてから立ち上がり、おやすみと声を掛けて自分の寝室へ戻っていってしまった。
こんな風に近づけただけでもいい。
ずっと憧れていた人と一緒に暮らす。
十五歳の私がそれを望んで届かず、二十五歳の私は形式だけでも満足しようと、本当の想いを封じ込めたまま。