Octave~届かない恋、重なる想い~

 投票日の朝となった。

 睡眠不足で眠たいはずなのに、いよいよ投票結果が出る日ということもあり、私は普段より早く目覚めてしまった。

 物音を立てて雅人さんを起こさないように、静かにキッチンへ行き、お味噌汁の用意を始めた。

「結子、おはよう」

「ひゃあっ!」

 驚いた。すぐ後ろに雅人さんがいたなんて。私もしどろもどろになりながら、挨拶をした。

「寝不足で疲れてるのに、ちゃんと朝飯作ってくれるんだな」

「あ、当たり前です」

「その当たり前っていうのは、宇佐美家の当たり前だろ。俺をはじめとする家庭環境があまりよろしくない家では、給食で朝昼の栄養を補えっていうのが当たり前だ」

 ……確かに。教え子の中学生も、朝は何も食べずに登校してくる子どもの割合が高くてびっくりした。

 だからこそ、私は家庭科で朝御飯の重要性を一生懸命伝えてきたつもりだったけれど、子どもがいくら学習しても、親が改善できなくては無駄になってしまう。

 せめて、私の家庭は、これまで通り朝御飯を大事にしたい。

「雅人さん、宇佐美の家は絶対に朝御飯を抜きません。これから先もずっと、です」

「ずっと、というと?」

「私と暮らしている間は、必ず朝御飯を食べてもらいます」

 そう言うと、雅人さんはまた私の頭を撫でて、にっこり微笑んだ。

「いつまでも結子と一緒にいたい気分になる。離れたくなくなる」

「本当、ですか?」

「ああ。どうしてこう、結子は……」

 ふい、と横を向かれてしまったが、その時の表情がとても照れくさそうにしていたので、これ以上『何を言いたかったのか』を追求するのはやめた。

 もしかしたら、私と同じ気持ちではないだろうかと、勘違いしてしまいそう。
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