Octave~届かない恋、重なる想い~
 お昼過ぎになり、私達は選挙事務所へと足を運んだ。

 事務所には、両親と弟の淳史、運動員、支持者、報道関係者も集まっていた。

 もうすぐ結果が届くという、緊張した雰囲気ではあったけれど、おそらく大丈夫だろうという余裕も感じられる。

 雅人さんは中央で待ち、私達家族は少し離れたテーブルで、その時を待った。


 当確という知らせが届いた時、万歳と達磨の目を入れるという恒例行事のあと、雅人さんは少し掠れた声で挨拶を行った。


「出馬を決めてから今日までの間、支えてくださった皆様のご厚意を無駄にしないよう、精一杯働かせていただきます。この街で真面目に暮らす市民みんなが幸せになれる政策とは何であるか、常に考えながら行動する所存です。義父の目指した方向を追いかけながら、私にできることを積み上げていきたいと思います」


 惜しみない拍手が送られた。

 この言葉は、これから父の跡を継ぎ、同じ会派に属するということも意味する。

 保守的で、この国で一番大きな政党の一員となる覚悟を決めたということ。

 今までは無所属のまま戦ってきたけれど、これからは自分、支持者、党のことも考えながらの政治活動となる。


 雅人さんは念願の政治家に、私は議員の妻になった。


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