Octave~届かない恋、重なる想い~

「物心ついた時にはもう、父は議員になっていました。
でも、父が議員で良かったっていう事が何一つ思い浮かばなくて」

「例えば?」


 聞き上手な雅人さんに促されるまま、私は当時を振り返りながらぽつりぽつりと話しはじめる。


「選挙前はいつも家が落ち着かなくて、両親が深夜まで戻って来ないのはざらでした」

「そうだろうね……」

「週末は勉強会や支持者への挨拶回り、それに結婚式やパーティーへの出席で、父はほとんど家にいませんでした」


 みんなが遠くへ旅行に行く中、家族旅行は市内の温泉だけ。

 その家族旅行の最中にも、あちこちで声をかけられては話しこんでしまう父に待たされて、私と弟はいつも退屈していた。


「あと……私はどれだけ頑張っても出来て当たり前だと言われました。
出来なかったら父の顔に泥を塗ると思うと、何もかもが怖くて」


 全て努力で補える程、人生は甘くないと思い知らされたのは、小学生の頃。

 自分の力ではどうしようもない事がわかって、愕然とした。


「怖い? 今でもそうなのか?」

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