Octave~届かない恋、重なる想い~
当選してからというもの、雅人さんは議会がない日も会合、視察、勉強会など、ほとんど休日もなく働いている。
『今日も遅くなる。夕食はいらない。先に寝ていて』
『了解しました』
こんなメールのやりとりばかりが増えてきた。
忙しいのはわかっている。父もそうだった。我が家の夕食はいつも、母と私と淳史の3人。
でも今は、ひとりぼっちになってしまった。
これも覚悟していたはず。自分が議員になることを避けられたのだから、今の生活に不満を持ってはいけない。
暇で時間を持て余してしまうと、余計なことを考えてしまう。
リハビリを続けている父の様子が、あまり改善されないこと。
母にも次第に疲れが見え始めてきたこと。
私が実家に住み込んで、しばらく母と交代しようかと提案したけれど、母に猛反対された。
『結子の今一番大事な仕事は、雅人さんを立派な議員にするために支えること。お父さんはお母さんの生きがいなんだから、仕事を取らないでね』などと言って。
もう、私は実家にも居場所がなくなってしまった。