Octave~届かない恋、重なる想い~
「適当に聞いているつもりはなかったの。でもそう聞こえたのならごめんね」
「うん、まあ、他人事であることに変わりはないんだろうしね。でさあ、そのオヤジ、働いてないんだけど時々妙に羽振りが良かったり、もしかしてヤクザ?みたいな人なのかもしんない」
「そ、そうなんだ……」
「だけど、うちとおかんが2人で暮らしてた時は、そんなんでもなかったのに、今、お金全然ないんだよね。今日だって、せんせいがお昼おごってくれたから食べられるけど、このまま家に帰っても、多分食べるもの何にもないよ。あ、コメはちょっとあったかな?」
確か彼女の家は母子家庭で、生活保護を受給していた。
だとしたら、今日は14日だから、まだお金に余裕があるはずなのに。
保護費が出るのは5日。こんな仕事をしていると、こういうことにも詳しくなる。
彼女のいう『得体のしれないオヤジ』のせいだとしたら、放っておけない。でも、私にできることには限りがある。
「じゃあ、立花さん、もしどうしても食べるものに困ったら、うちで食べさせてあげる。ただし、あなただけね」
そう言って、私は彼女に自宅の住所とメールアドレスを教えた。
その後、とんでもないトラブルに巻き込まれるとも知らずに。