Octave~届かない恋、重なる想い~

「先生」として


その日は結局、夕食もいらないという連絡が後から届き、私はひとりで手巻き寿司を作って食べることになってしまった。

日付が変わる前に雅人さんが帰ってきた。

そっと鍵を開ける音が聞こえたから、お出迎えのために玄関へ急ぐ。

「おかえりなさい」

「ただいま。起きてたのか」

「12時までは待ってます」

「寝ていても構わないよ」

「私がそうしたかったんです」

私は自分の意思で雅人さんを待ちたかっただけ。少しでもいいから話を聞いて欲しい、そう思ったから。

だけど雅人さんはすぐに着替えてお風呂へ行ってしまった。

最近、話したいことは何も話せず、すれ違ってばかりのような気がする。

疑ってはいけないと思うけれど、こんな時間になってしまったのは、女の人と逢っていたから?

すぐシャワーを使うのもそのせいだろうか。

疑い始めたらきりがない。雅人さん本人に直接聞けば答えてくれるだろうか。

いや、お互いの恋愛は自由だけど、相手にバレないようにという条件も雅人さんが出した。

だとしたら、たとえそうであったとしても、本当のことを言うはずはない。

私は諦めて、自分の部屋で眠った。
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