Octave~届かない恋、重なる想い~
翌朝、いつものように7時に朝食を用意し、雅人さんが部屋から出てくるのを待っていた。
私達は最初の夜、約束した。
お互いの部屋には入らないと。
だから遅れそうな時だけ、ドアの外から声をかけることにしている。
今日は確か9時に人と会う予定があると言っていた。そろそろ起こさなくては間に合わないかも知れない。
「雅人さん、おはようございます」
一度、声をかけてみた。返事はない。
ノックしてから、もう一度声をかけたけれど、ドアの向こうは静かなまま。
「雅人さん、遅れますよ?」
もう、7時半を過ぎてしまった。朝御飯を食べる時間がなくなる。
「出てきてくれないと、こちらから開けてしまいますよ?」
最後通牒も虚しく、静まり返った部屋から……呻き声が聞こえた。
「雅人さん、大丈夫?」
咄嗟に頭に浮かんだのが、倒れた時の父だった。
父も、自分の書斎で倒れていたと聞いた。
早く助けなくては、そう思って初めて自分からドアノブに手を伸ばす。
ドアを開けると、ベッドの上でうなされている雅人さんが見えた。