Octave~届かない恋、重なる想い~
「雅人さん!」
ベッドへ駆け寄って、すぐ雅人さんの両肩に手を置いた。
軽くトントン、と叩いてみる。ゆすらないように気を付けながら。
脂汗を流して苦しそうに歯を食いしばっていたから、どこか痛いのだろうかと思った。
もう一度、トントンと肩を叩くと、やっと目を開けた。
しばらく焦点の合わないような目線を私に向けていたけれど、それからがばっと起き上がった。
「今、何時?」
「7時半を過ぎたところです」
「まずい、寝過ごした。……もしかして、何度も起こしてくれた?」
「ええ。7時半になっても返事がなくて、お部屋でうなされていたようなので、勝手に入ってしまいました」
「構わないよ。君が嫌でなければ。ありがとう」
シャワーを浴びてくる、と言って、部屋を出る直前、雅人さんはぽつりと言った。
「昨日、母の墓参りをして、ちしま学園へ顔を出した。そしたら偶然、同期も差し入れ持って来てたんだ。それで一緒に飲んでて遅くなった。ヤツは船乗りだから、滅多に会えないんだ。飲みすぎたせいか、墓参りのせいか、母の夢を久しぶりに見たよ。この歳になっても、母は怖いね」
笑っていたけれど、雅人さんのお母さんに対する恐怖は、普通の人とは全く違うのだと、改めて思った。