Octave~届かない恋、重なる想い~
もちろん、と言いたかったけれど、弱みを見せるのは恥ずかしい。
慎重に言葉を選びながら、雅人さんの質問に答える。
「子どもの頃は、この小粒な身体のせいで色々とありました」
「ああ……ピアノのこと?」
「はい。やっぱり今でも1オクターブは届かないので、アルペジオでごまかしているんです。それと、バレエも」
ヒロイン役にはどう頑張ってもなれなかった。
ずっと努力を続けて、毎日練習に明け暮れていたけれども。
『あの子、まだヒロイン役、諦めてないの?』
『王子様と身長差30センチ以上あるんじゃない?』
『親子にしか見えないわね。存在感のないおちびちゃんにヒロインは無理でしょう』
ある日、先輩達がこっそり話しているのを聞いてしまった。
努力しても報われない、いつまでたってもその他大勢の私だったら、お父さんを失望させてしまうと思って、中学校入学を期にやめた。
「芸術やスポーツは、体格も大いに関係するからね。でも君は、勉強熱心だったはず。それも期待を裏切らないため?」
「それもありますけれど、自立するために必要なのは、勉強だと思ったんです」
そう言うと、雅人さんは深く頷いた。
……本当は、あなたに会いたかったからって答えたら、何て言うだろう。