Octave~届かない恋、重なる想い~

 無邪気な顔でサンドイッチを頬張る立花さんを見て、ふと疑問に思った。

 彼女は制服を着ていた。

 午前授業だったから、着替えてからここへ来てもいいはず。


「ねえ、立花さん、一度家に帰ってから来たの?」

「学校からまっすぐ来たよ。ダメ?」

「うーん、一応、おうちの人に知らせておいた方がいいかなって」

「大丈夫、知ってるから。せんせいのところに行くって」

「そう、だったらいいけれど」


 ということは、我が子が他人様の家へご飯を食べに行くということも知っているのだろうか。

 それはそれでちょっと問題ありだと思うけれど。


 立花さんは学校の様子などを喋りながら、出されたランチプレートをぺろりと完食した。

 食後にアップルティーとバニラアイスを勧めると、それも嬉しそうに受け取っている。

「こんなにちゃんと食べたの、久しぶりだよ」などと言って。

 どちらもあっという間に食べてしまって、ごちそうさまと言ってからすぐ、彼女は突然、こう切り出した。


「せんせい、あのさ、うち、もう学校に行きたくない。でも、家にも居たくない」

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