Octave~届かない恋、重なる想い~

「わかった。立花さん、今まで辛かったね」

「せんせい、うち、行きたいの。みんなと修学旅行に……」

「うん、そうだよね。行きたいよね」


 泣き出した立花さんをなだめながら、私は考えた。

 今は専業主婦だけれど、私には退職金も手付かずで残っていた。

 たった4万円程度、私がこっそり負担しても誰にも迷惑はかからない。

 このお金で、立花さんが修学旅行に行けるのであれば、安いもの。

 ここで私が見捨ててしまったら、立花さんは不登校になってしまうかも知れない。

 彼女はお母さんとその再婚予定の相手を恨みながら、ずっと消えない傷を抱えてしまうのだ。


 雅人さんと立花さんが重なる。

 実の親を恨みながら生きることが、どれほど辛いのか。

 無償の愛を与えてくれるはずの母に裏切られ、それを今も引きずって生きている雅人さんを見ている私には、立花さんを突き放すことなんてできなかった。

「わかった。私にできることを、何とかしてみるから。でも、今は手持ちがそんなにないの。だから、明日まで待っていてくれる?」

 私の言葉を聞いて、立花さんが顔を上げる。

 泣きはらした目の奥に、光が戻ったように見えた。

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