Octave~届かない恋、重なる想い~
夕方まで立花さんの話を聞き、色々ある彼女の生活が少しずつ見えてきた。
私の元勤務先の中学校は、荒れていると評判の地域で、彼女のように母子家庭や父子家庭も多い。
途中で苗字が変わることなど日常茶飯事で、誰もその理由を聞いたりなどしない。
だから、高校へ進学できない生徒がいたし、彼女も進学せずに働くか、定時制高校へ行くかのどちらかになりそうだと言っていた。
今の立花さんと同じ年の頃の私はなんて恵まれていたのだろうかと、改めて考えさせられる。
議員の娘というプレッシャーはあったけれど、両親から大事に育てられ、お金に困ることはなかった。
バレエで良い役がもらえない、陰口を言われる、できて当たり前だと見られる……そんなこと、小さな悩みでしかなったのだ。
そんな私が、立花さんへ偉そうなアドバイスなどできるわけがないとさえ思ってしまう。
でも、これがこの街の現実だった。
彼女はなかなか家に帰りたがらなかったけれど、何とか説得して帰宅させた。
帰りまでにご飯を沢山炊いて、今夜と明日の朝食べられるように、おにぎりをいっぱい作って持たせる。
少しでも彼女の力になりたい、私はそれしか考えていなかった。