Octave~届かない恋、重なる想い~
私の願いもむなしく、マンションの部屋には明かりがついていた。
別に悪いことをしていた訳ではないけれど、ちょっとだけ後ろめたい気持ちで家に帰る。
「ただいま。すみません、遅くなってしまいました」
リビングには、まだ背広姿で帰宅したばかり、といった雅人さんの姿があった。
「おかえり。どこへ行っていたの?」
「ちょっとコンビニまで」
そう言った私をじっと見て、彼は首をかしげた。
「足りない食材でも買ってきたようには見えないね」
買い物袋も何もない私を見たら、誰だってそう思うだろう。急いでいたので、ATMしか使わずに店を出たのだから、私は小さなショルダーバッグしか身につけていなかった。
「ATMを使っていました」
「そうか」
これ以上追及されることはなさそうで、ほっとしたのもつかの間。
「誰か、来ていたんだな」
雅人さんは、キッチンに残っていた2人分のティーカップを指さした。