Octave~届かない恋、重なる想い~
本当に、どうして気づかなかったのだろう。
自分の考えの至らなさが恥ずかしくなった。
いや、恥ずかしいだけではない。今までこんなに頑張ってきた雅人さんも、父も、家族みんなにとんでもない迷惑をかけるところだったのかも知れない。
私は立花さんのことだけを考えていた。
彼女が哀れで、自分のできることは何かと考えたら、足りないお金を出してあげることしか思い浮かばなかった。
「雅人さん、ごめんなさい。私……」
視界がぼやける。自分で自分のことが情けなく、悔しい。
雅人さんに言われるまで、全く気がつかなかった。
政治家の娘なんて嫌だと思い続けていた。そのくらい、宇佐美という家に縛り付けられていたはずだったのに。
私はただ、生徒のことだけを考える元教員として行動してしまった。
でもそれは、宇佐美雅人の妻として、絶対にしてはいけないことだった。