Octave~届かない恋、重なる想い~
「……」
何も言えなかった。そこまで私は考えていなかったし、目の前の問題を解決したい、困っている生徒を助けてあげたい、ただその一心だったから。
「その生徒自身が解決できない問題だったとしたら、学校から行政に働きかけるのが筋だ。生活保護費が適正に使われていないのであれば、社会福祉事務所へその旨を伝えて、保護者へ指導を入れてもらう。それでも改善されない、ご飯もろくに与えられないというのであれば、児童相談所へ通報する」
背中を撫でていた手の動きが、ぴたりと止まった。そして。
「話を聞く限り、一度児童相談所へ話してみる方がいいかも知れない。その、母親の恋人っていうのが気になる。まともな男ではないな。しかも母親は、娘の修学旅行費を使い込まれても何もできない。もう言いなりになっているんだろう。一番危ないパターンだ」
そっと、抱擁を解かれた。
「結子は好きでもない男と暮らしても平気か?」
「何の話ですか?」
今までなだめてくれていたのは、いったい何だったのだろうか。
不思議に思って雅人さんの顔を恐る恐る見上げる。
「義理の父親が突然襲い掛かってきたとしたら、どうする?」