Octave~届かない恋、重なる想い~
「まだ、帰ってきてないそうです……」
やっとスーツからホームウェアに着替えた雅人さんも、色々考えながら私のやり取りを見ていたようだった。
メモを取りながら、タブレットPCで何かを検索していた。
「警察に届けるのは、親の役目だ。結子がやみくもに探しに行っても、おそらく無駄足だろう。それより、ここに居て、もし彼女が来た時に迎え入れた方がいい」
「そう、ですよね」
「今の結子にできることは、児童相談所に通報することだな。これが番号だ」
「え?」
「一時保護してもらっている間に、性的虐待がもしあったのだとすれば、それをカウンセラーに相談できるだろう。なかったとしても、飯も食わせてもらえない環境にいるより、ましかもしれないぞ」
「私が、通報するんですか?」
「そう。怪しいと思ったら通報していいんだ。もし勘違いだったとしても、罰せられることはない。通報せずに見て見ぬふりをした結果、毎年何十人もの子どもが虐待によって死んでいる。この中には、虐待によって自殺した子どもの数は入らない。だから実際には百人単位だ。その中のひとりになったら、後悔しないか?」