Octave~届かない恋、重なる想い~
「絶対に、後悔します」
「そう言うと思ったよ。だから、通報するのであれば今が一番いい。こういう支援の仕方もあるんだ」
お金を与えるだけではない、その先に通じる支援が何なのか、雅人さんはさすがによく知っていると思った。
「昔、ちしま学園にもいたよ。性虐(せいぎゃく)で入所してきた子。もちろん、入所の理由は普通、みんなには知らせない。自分から言う子もいるけどな」
「そう、でしたか……」
「色の白い、お人形のような可愛い子だった。ある時、彼女がパニックになって暴れ出したことがあったんだ。その日は凄い吹雪で、停電が起こった。たまたまそれが風呂の時間で、風呂場が真っ暗になってしまって、彼女だけが素っ裸のまま風呂から飛び出してきた。それから……」
雅人さんが目を閉じて、それから言葉を探すように、天井へ顔を向けた。そして、自分の喉に手を当てる。
「ロビーの真ん中で彼女がぶっ倒れた。みんな真っ暗でよく見えないけど、彼女の叫び声だけが聞こえたんだ。義理の父親から暴行を受けている最中の、心の叫びってやつをね。騒ぎを聞いた女の先生が彼女を落ち着かせるまでの十分間、俺達みんな、その声を聞いてしまって。かなりのトラウマだったよ」