Octave~届かない恋、重なる想い~
最初は一応耳を傾けていた親族も、そのうち会話へ戻り、私のピアノは静かなBGMへ。
曲が終わって次に何を弾くか考えていた私の頭上で、低めの声が響いた。
「お上手ですね。ピアノはずっと習っているのですか?」
「えっ?」
……さっきのお客様から突然声をかけられて驚いた。
この中では唯一、親族ではない男性の存在に、つい、身構えてしまう。
すると彼は自己紹介をしながら、私の名前を聞き出した。
『……二人きりの時は、結子と呼ぼうか』などと秘密めかした会話を交えながら。
「せっかくだから、リクエストしてもいいかな? 君にぴったりな『乙女の祈り』を」
『乙女』がぴったりと言われて、ますます照れくさくなって下を向いたけれど。
「すみません、その曲は苦手なんです……」
「あ……だったら無理しなくていいよ。ごめんごめん。きっと君だったら弾けると思ったんだ」
「弾けますけど……うまく弾けないんです。この曲、右手はずっと1オクターブ開いて弾かなくちゃならないんですけれど、私は届かなくて……」
自分の小さな右手を開いて、鍵盤に当てて見せる。
曲が終わって次に何を弾くか考えていた私の頭上で、低めの声が響いた。
「お上手ですね。ピアノはずっと習っているのですか?」
「えっ?」
……さっきのお客様から突然声をかけられて驚いた。
この中では唯一、親族ではない男性の存在に、つい、身構えてしまう。
すると彼は自己紹介をしながら、私の名前を聞き出した。
『……二人きりの時は、結子と呼ぼうか』などと秘密めかした会話を交えながら。
「せっかくだから、リクエストしてもいいかな? 君にぴったりな『乙女の祈り』を」
『乙女』がぴったりと言われて、ますます照れくさくなって下を向いたけれど。
「すみません、その曲は苦手なんです……」
「あ……だったら無理しなくていいよ。ごめんごめん。きっと君だったら弾けると思ったんだ」
「弾けますけど……うまく弾けないんです。この曲、右手はずっと1オクターブ開いて弾かなくちゃならないんですけれど、私は届かなくて……」
自分の小さな右手を開いて、鍵盤に当てて見せる。