Octave~届かない恋、重なる想い~
そんなことがあったなんて……。
雅人さんが施設での思い出を語ってくれることは、ほとんどない。
選挙の演説でも、施設の話は最終日に少し語っただけだった。
思い出したくない過去なのだろうと思った。
それでも私に聞かせてくれるということは、やっぱり、私は自分のするべきことから目をそらさず、実行に移さなくてはならないということを気づかせてくれようとしているに違いない。
「わかりました。今から児童相談所に連絡してみます」
「ありがとう。これで、不幸な子がひとり救われるかも知れない。直接金を渡すと、そういうことが表沙汰にならないまま、その子は耐え続けてしまうこともありえる。結子が良かれと思ってした行為が、結果的にその子を苦しめることになりかねないんだ」
今ならわかる。雅人さんの言葉の意味が。
お金を渡すだけでは、立花さんの自立の助けにはならない。
むしろ、他人に甘えるという悪い癖をつけてしまうことに繋がる。
金の切れ目が縁の切れ目になるということを、彼女はまだ知らないのだから。