Octave~届かない恋、重なる想い~

「私、やっぱりまだまだ駄目ですね。何も知らずに余計なことをしようとして……政治家の妻になんてなれない器なんです」

 これでももし、私が伯父の言いなりになって、出馬していたとしたら。

 考えるだけでも恐ろしい。すぐに公職選挙法違反で捕まってしまうほどの無知と無鉄砲さを激しく後悔することになっただろう。

 知らなかったでは済まされない。5年間の公民権停止となれば、父の地盤を淳史に引き継ぐことなど不可能になる。


「それを言うなら、俺だって政治家にはなれない器だ。でも、器ってものは、経験値によって、どんどん膨らむ。だから、これから2人で大きな器になれるように、レベル上げをしよう」

「はい」


 返事をしてから、心の中で雅人さんの言葉を反芻して驚いた。

 これから2人で、と言ってくれたのは、どういう意味だろう、と。



 この言葉に、私達の『夫婦としての』関連性はないのだと知っているけれど、少しだけ期待してもいいかも知れない。

 雅人さんは2人で、という言葉を使ってくれたのだから。

 まだ夫婦としての役割を続けようと考えてくれた気がした。

< 141 / 240 >

この作品をシェア

pagetop