Octave~届かない恋、重なる想い~
「駄目です。雅人さんは明日もお仕事があります。ずっと寝不足が続いているんですから……」
ついて来ないでください、そう言おうと思ったのに。
「新婚なのに、妻を夜中に一人で外出させる夫などあり得ない」
バッグを持つ手と反対側を、強引に繋がれてしまった。
触れた手が驚くほど冷たくて、つい、小さな声をあげてしまう。
それを勘違いされてしまったのだろうか。
「嫌であっても、外へ行くなら一緒だ」
苦々しい声で、そう言われてしまい、もう逃げられなくなった。
「雅人さん、ごめんなさい……私、迷惑をかけてばかりです」
「それは違う。君のためじゃない。後悔したくない俺のためだ。そしてこれは、性虐の悲惨さを垣間見たものの義務だ」
私への配慮で、こう言ってくれたに違いない。
『後悔したくない俺のため』
それは私も同じだった。
教え子の不幸を黙って見過ごすことなんてできない。後悔したくない。
私は雅人さんと2人で、急いで家を出た。