Octave~届かない恋、重なる想い~
初夏とはいえ、北海道はこの季節、まだまだ肌寒い。
立花さんも夏服のセーラーだけでは寒いだろうと思った私は、大きめのトートバッグに自分のスプリングコートを入れて玄関を出ようとした。
その時また、雅人さんが私の手を掴み、私を見つめてこう言った。
「一蓮托生だ」
夫婦だから、私の行動は雅人さんの今後に関わるのはわかっていたつもりだった。
だけど、私が良かれと思ってすることが、雅人さんの政治活動を大きく妨げる結果になるかも知れないとは、全く考えていなかった。
立花さんに渡したのは、まだおにぎりだけ。
今頃あのおにぎりを食べながら、どこか暖かいところに居てくれたらいいのだけれど。
お金をほとんど持っていない彼女が、危険な目に遭っていないか、自ら危険なことをしようと考えてしまう可能性も頭の中をよぎり、不安がどんどん広がる。
急がなくては!
さっきより少し温かくなった雅人さんの手をきゅっと握って、私は階下へ続くエレベーターホールに向かって歩き出した。