Octave~届かない恋、重なる想い~
まさか、外でも手を繋ぐなんて、と驚きながらも、それも全て『後悔しないため』なのかも知れないと思った。
雅人さんの行動基準はおそらく『後悔しないために今、何をすべきなのか』ということなのだろう。
とにかく今は、立花さんを探すことだけに気持ちを集中させなくてはならない。
二人でエレベーターホールへ向かう。
真夜中なので、そっと、足音を立てないように歩いた。
気持ちだけが焦る中、いつものエレベーターホールとは違う匂いがして、はっとする。
これは、もしかしたらごはんの匂い?
雅人さんも気づいたようで、私の顔を見る。
私はかすかに頷いて、唇だけで『いる』と伝えた。
ホールの角に置いてある観葉植物の奥に、紺色のスカートが見えた。
しゃがみこんで、スマホを握りしめている背中も確認できる。
私が手渡した紙袋に、残りのおにぎりが入っているらしい。
雅人さんが目配せをして、私から手を離した。それから階段へ向かって歩いていく。とても静かに。
これは、立花さんを逃がさないための行動だと気づいた時、私のスマホが鳴り出した。
立花さんが、私を見つけてしまった。