Octave~届かない恋、重なる想い~

 まさか、外でも手を繋ぐなんて、と驚きながらも、それも全て『後悔しないため』なのかも知れないと思った。

 雅人さんの行動基準はおそらく『後悔しないために今、何をすべきなのか』ということなのだろう。

 とにかく今は、立花さんを探すことだけに気持ちを集中させなくてはならない。

 二人でエレベーターホールへ向かう。

 真夜中なので、そっと、足音を立てないように歩いた。

 気持ちだけが焦る中、いつものエレベーターホールとは違う匂いがして、はっとする。

 これは、もしかしたらごはんの匂い?

 雅人さんも気づいたようで、私の顔を見る。

 私はかすかに頷いて、唇だけで『いる』と伝えた。

 ホールの角に置いてある観葉植物の奥に、紺色のスカートが見えた。

 しゃがみこんで、スマホを握りしめている背中も確認できる。

 私が手渡した紙袋に、残りのおにぎりが入っているらしい。

 雅人さんが目配せをして、私から手を離した。それから階段へ向かって歩いていく。とても静かに。

 これは、立花さんを逃がさないための行動だと気づいた時、私のスマホが鳴り出した。

 立花さんが、私を見つけてしまった。

< 145 / 240 >

この作品をシェア

pagetop