Octave~届かない恋、重なる想い~

 入室してすぐ、後ろを歩いていた雅人さんが、部屋のドアを閉めた。

 リビングと廊下を隔てたここであれば、私たちの小さな話し声が立花さんに聞こえることもない。


「良かったな、最悪の結果にならなくて」

「はい、本当に。このまま見つからなかったら、どうしようかと思いました」

 私が思い描いた最悪の結果と、雅人さんが考えた最悪の結果は、おそらく同じだろう。


 それは、立花さんが自殺してしまうこと。

 そうならなくて、本当に良かった。


「風呂、入ってきたらどうだ?」

「は、はい。そういえば、それどころじゃなくって……いってきます」

「いってらっしゃい」

「あ……すみませんが、タオルを貸してください。今、取れなくて」

 立花さんが私の寝室を使っていて、既に明かりを消して眠っているかも知れない中、クローゼットを開けてタオルを持って行くわけにはいかない。

「ああ、そうだな。ついでにパジャマも貸してやる。下着は無理だけど」

「なっ……!」

 たぶん真っ赤になったであろう私の耳許で、雅人さんが内緒話をした。

「こんな状況だから、今夜はずっと一緒だ」

「……はい」

 私が蒔いた種だ。立花さんに邪推されないようにしようと、覚悟をきめた。

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