Octave~届かない恋、重なる想い~
いつもと違い、下から私を睨みつつ見上げる雅人さんは、とても不満げな表情で腕組みをしている。
「違います! それでは私の気が済まないのです。私だけがぬくぬくとベッドで寝ているなんて……」
「ああそうか。結子、それも違う。俺もベッドで寝る。結子も寝られるようにスペースを空ける。セミダブルだから何とかなる。これで大丈夫」
雅人さんは、さっき立花さんと話した時と同じ、ポーカーフェイスでとんでもない提案をした。
「ダメです! 大丈夫じゃないです!」
「どうして?」
「だって、私達は……」
そこまで言って、私はあの最悪な新婚初夜を思い出した。
この部屋で、手酷く拒絶され、泣きながら自分の部屋へ戻ったあの日。
あれからすでに四か月以上が過ぎた。
その間、選挙で当選し、議員になった雅人さんと、退職し、専業主婦になった私。
どんどん表に出ていく雅人さんに対し、私は内に籠ってばかりだった。
妻として、周りから一番期待されている役割……雅人さんの子どもを身籠ることも許されず、ただ同居するだけ。
でもそれは、雅人さんの希望であり、お互いがこれ以上傷つかないための方策。
それを忘れた訳ではないはずなのに。