Octave~届かない恋、重なる想い~
「……今はお互い疲れている。ぐっすり眠っていて気づかない間に、君の教え子がいつ俺達を見てもおかしくない。こんな状況で、俺か君が床で寝ていたら、どうなる?」
雅人さんからそう問われて、想像してみる。
床で寝る私と、ベッドで眠る雅人さんを発見した立花さんを。
……偽装だということがバレる、もしくは、自分のせいで私達が気を遣って離れて寝ていると勘違いする。
元々居場所がないと言って途方に暮れていた子どもが、私達にまで『自分のせいで無理をさせてしまった』と思い込んだらどうなるか。
彼女はおそらく、明日の下校時に児童相談所の職員が学校へ来て、話を聞くことになるだろう。
そうなったのも、周りがみんな彼女を厄介払いしたかったからだと勘違いさせてしまったら?
それだけは避けたい。きっと雅人さんもそれを考えた上での申し出のはず。
だとしたら、それは受け入れなくてはならない。
私のためではない。私達夫婦のためでもない。立花さんのために。
「わかりました」
「君は壁側へ。俺はこっちで眠る」
「はい……」
ベッドカバーと掛布団を半分ほど捲り上げて、雅人さんに呼び掛けられる。
「結子、おいで」
新婚初夜に聞きたかった言葉だった。
思い出すとまた、涙が出そうになる。
雅人さんに悟られまいと、私は思い切って布団に潜り込んだ。