Octave~届かない恋、重なる想い~
「おやすみなさい」
「おやすみ」
勢いよく隣に潜り込んだのはいいけれど、心臓がばくばくして眠るどころではない。
私は壁を向いて、できるだけ雅人さんの邪魔にならないようギリギリまで端へ体を寄せて寝たふりをした。
雅人さんも私と同じように、できるだけ端へ寄ってくれているのがわかる。
私よりずっと体の大きい雅人さんには、寝返りすら遠慮してしまうこの状態はなかなかの苦行ではないだろうかと想像した。
私と違うのは、この状態に対して緊張したりドキドキしている様子が全くないこと。静かな呼吸音と、それに呼応する少しの掛け布団の揺れ、私より高めの体温だけが伝わってくる。
十分程度経っただろうか。
そろそろ雅人さんは眠っただろうと予想して、少しずつ寝返りを試みた。ずっと緊張しながら壁を向いていたら、体の下敷きになってしまった左腕がしびれてきたから。
まずは左手を体の下から抜いて……と、動き始めたところで、私の部屋のドアが開いた音がした。
立花さん、トイレかな?
違う。こっちに足音が近づいて来る?
「結子、静かに」
眠っていると思っていた雅人さんが私に小さく声をかけた。