Octave~届かない恋、重なる想い~
雅人さんの指示通り、お母さんにメッセージを送った立花さんは、少しほっとしたような顔をしてあくびをひとつ。
そのあくびが伝染したのか、私と雅人さんも大きなあくびをした。
「二人とも、あくびも一緒なんだ。仲良しだよね~」
「えっ?」
「当然。何しろ新婚だからね」
戸惑う私に対して、雅人さんは澄ました顔でこう言い放って、私の腰に手を回した。
「いいな~。うちもそんな旦那さんが欲しい~」
「ははは。ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」
まんざらでもない表情を浮かべ、雅人さんが笑った。
そういえば、結婚してからこの家で声を出して笑う雅人さんを見たことはほとんどない。
いつも疲れて帰ってきて、新聞を読んでいるかニュースを観ているか。
なんとなく、胸の奥がちくりと痛んだ。
「立花さん、明日起きられなかったら困るから、そろそろ寝ましょう」
「はあい。……せんせい、色々ありがと。明日の朝、絶対起こしてね。起こしてくれるまでうち、起きないからね」
「そう言いながら、さっきは自分で起きてきたじゃない。大丈夫。立花さんは自分で何でもできるから!」
「……そう、なれるといいな。じゃあ、おやすみなさい」