Octave~届かない恋、重なる想い~
立花さんが私の寝室へ戻るまでの間、雅人さんはずっと私の腰に腕を回したままだった。
それが、雅人さんの寝室へ入るまで続き、また二人でセミダブルベッドへ横になる。
さっきと同じように、壁に向かってできるだけ端に体を寄せられるように動いていると
「あんまり端に寄ると、寝にくいだろう。もっとこっちにおいで」
横向きになっていた体を、仰向けにされた。
「大丈夫ですから! 私、あんまりスペース取りませんし!」
「しっ! ……聞かれてたらどうする?」
はっとした。見せかけだけの新婚夫婦であることがバレてしまっては困る。
そんな言い訳を自分の心に刻んでから、雅人さんの体に寄り添うように体の位置をずらした。
体の右側が、雅人さんに触れている。
私の尊敬する人。私の憧れの人。私の好きな人。そして、我が家のピンチを救って婿養子になってくれた人。
いつか本当の夫婦になれる日までまた離れてしまうのだから、勇気を出して私から手を繋いでみようと試みた。
私の右手が雅人さんの左手をそっと触った瞬間、右手がほわんと温かくなった。
雅人さんの方から、手を繋いでくれたのだと知った瞬間、さっき感じた心の痛みは綺麗さっぱり消えてなくなった。