Octave~届かない恋、重なる想い~

 立花さんが私の寝室へ戻るまでの間、雅人さんはずっと私の腰に腕を回したままだった。

 それが、雅人さんの寝室へ入るまで続き、また二人でセミダブルベッドへ横になる。

 さっきと同じように、壁に向かってできるだけ端に体を寄せられるように動いていると

「あんまり端に寄ると、寝にくいだろう。もっとこっちにおいで」

 横向きになっていた体を、仰向けにされた。

「大丈夫ですから! 私、あんまりスペース取りませんし!」

「しっ! ……聞かれてたらどうする?」


 はっとした。見せかけだけの新婚夫婦であることがバレてしまっては困る。

 そんな言い訳を自分の心に刻んでから、雅人さんの体に寄り添うように体の位置をずらした。

 体の右側が、雅人さんに触れている。

 私の尊敬する人。私の憧れの人。私の好きな人。そして、我が家のピンチを救って婿養子になってくれた人。


 いつか本当の夫婦になれる日までまた離れてしまうのだから、勇気を出して私から手を繋いでみようと試みた。

 私の右手が雅人さんの左手をそっと触った瞬間、右手がほわんと温かくなった。

 雅人さんの方から、手を繋いでくれたのだと知った瞬間、さっき感じた心の痛みは綺麗さっぱり消えてなくなった。


< 163 / 240 >

この作品をシェア

pagetop