Octave~届かない恋、重なる想い~

 ……川のせせらぎと小鳥のさえずりが聞こえる。

 いつものスマホのアラームで起こされた。

 体が重い。寝不足で疲れが取れない感覚、とでも言うのだろうか。

 
 そうだった。私は結婚してから初めて、雅人さんと一緒のベッドで眠った、はず。

 腕を伸ばしてスマホのアラームを止めようとした時、何かに掴まれていたことに気づいた。

 雅人さんの手、だ。まさかずっと握っていた訳ではないと思うけれど、少なくとも完全に拒絶された初めての夜とは違うのだと思ったら、体の重さが一気になくなったような気がした。

 一度、きゅっと握り返してから、手を離す。そしてスマホを操作してアラームを停止したところで、雅人さんが上半身を起こして私の方へ振り返った。


「おはよう、結子」

「雅人さん、おはようございます」

「よく眠れたみたいだね」

「お陰様で。雅人さんは?」

 
「俺も、お陰様で。立花さんが起きる前にシャワー浴びてくる」

 一瞬、答えに詰まったような間があったけれど、雅人さんはそう答えるとすぐに浴室へ向かった。


 私たちの距離は少しだけ縮まったと思いきや、あっという間にいつもの距離へと戻ってしまったのだろうか。

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