Octave~届かない恋、重なる想い~
雅人さんは以前、好物だと言っていた卵焼きから食べ始めた。
私も真似して卵焼きに箸をつけたら、その様子をじっと見つめられる。
「結子の卵焼き、美味いよな。なんか、ほっとする」
「そう、ですか? 嬉しい……ありがとうございます」
「俺も嬉しいよ。毎朝こんなに美味い朝食が用意されていて」
雅人さんは、美味しいものを食べた時、必ずそれを私に伝えてくれる。
私が照れてしまうほど嬉しい言葉を忘れずにかけてくれる雅人さんのお蔭で、私ももっと料理の腕を磨こうという気持ちになれる。
雅人さんは人の気持ちを掴むのがとても上手だ。
私の気持ちも、初めて会った十五歳の時から掴まれたままだと知ったら、雅人さんはどんな顔をするだろう。
「おはようございま~す! なんか朝かららぶらぶな感じ!」
頭の中で、十五歳の私と二十三歳の雅人さんを思い浮かべていた私は、突然声をかけられて驚いてしまった。