Octave~届かない恋、重なる想い~

 うっかり、お箸を手から落としそうになりながら、慌ててそれを掴みなおす。


「ごめん気づかなかった! おはよう、立花さん」

「おはよう。ちゃんと自分で起きられて、偉いな」


 雅人さんも笑って挨拶をしてくれている。

「うわ~! 朝から豪華! うちも食べてもいいの?」

「どうぞ。俺の席、もうすぐ空くからここで食べるといいよ」

「ありがとうございます~。じゃあ、先に着替えてきま~す」


 立花さんはパタパタと走って私の部屋へ戻り、着替えをしている。

 また少し静かになったダイニングに、雅人さんの小さな声が聞こえた。


「これなら問題ないだろう?」

 偽装がバレずに済んだ、ということに同意を求められたようなので、私は強く頷いた。

「問題は、彼女の母親への連絡が、相手の男に筒抜けかも知れないってことだ」

 昨日の深夜、立花さんがお母さんにメッセージを送った時、少し不自然な間が開いて返事が届いた時があった。

 もしかすると、メッセージに気づいた男が、お母さんに嘘をつかせているのかも知れない。

 
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