Octave~届かない恋、重なる想い~
偽りの夫婦
婿養子
雅人さんが運転する車に私と立花さんが乗り込み、七時半に家を出た。
私の元の勤務先である、市立東中学校へ向かう。
退職してから一度だけ、書類を取りに行ったきりだった。
今回は急ぎの要件だし、生徒が登校してきている時間なので、元同僚とおしゃべりなどする余裕はない。
それでも久しぶりに社会の空気が吸えるような気がして、元同僚や子ども達の顔を思い浮かべてみる。
通学ラッシュに巻き込まれることなく、十五分で職員玄関前に到着した。
とりあえず来客駐車場に車を停めてもらおうと思い、雅人さんに声をかけた。
「職員玄関の向かって左、三台分が来客駐車場です」
声をかけてから、はっとした。多分、雅人さんも同時に。
「……もう、一台停まってる。送りの車なら生徒玄関前で降ろすのが普通だよな?」
「児童相談所の車でしょうか?」
もしかしたら、もう来てくれているのかも知れない。そうであって欲しい。
近づいて見ると、かなり古い型のセダンであることがわかった。
車高を下げて改造していて、運転席と助手席までスモークガラスで見えなくなっている。
どう見ても、児相の車ではない。
「どうしよう、あの男の車だ……」
後部座席で、立花さんが呟いた。