Octave~届かない恋、重なる想い~
「私、職員室に電話して、応援を頼みます」
「わかった。それまでの間、この車に立花さんが乗っていることには気づかれない方がいい。少し離れたところに停めよう」
「それじゃあ、向こうの講師用駐車場に停めてください。時間講師の先生が来るのは、二時間目からなので今なら使えます」
立花さんには念のため、体を低くして外から見えなくしてもらうよう、雅人さんが指示していた。
「どうしよう。おかんがやられちゃうよ。うちも連れ戻されるんだ」
か細い声で、立花さんが呟いた。
「絶対にそんなことさせない。俺達と先生方で君とお母さんを守る」
「大丈夫。人目が多ければ、目立つことはできないはず。もうすぐ先生方が職員玄関に来てくれるから」
後部座席で小さく丸まっている立花さんに、私達は言葉をかけた。
いつもはあんなに元気で、学校では先生方に反発することが多かった彼女が、本気で怯えているのが解る。
スモークガラスのせいで、男の車に誰が何人乗っているのかよくわからない。
「立花さん、母親の彼氏のフルネームは?」
雅人さんがスマホを手に、声をかけた。何をするつもりなのだろう?