Octave~届かない恋、重なる想い~
車が急発進して、セダンの前を通り過ぎる。
そのまま職員玄関前に到着して、雅人さんがドアロックを解除したのを合図に、私と立花さんはドアを開けて外へ飛び出す。
ほぼ同時にセダンのドアも開いて、誰かが出てくるのがわかった。
でも、私にはそれが誰なのか、確認している余裕はない。
職員玄関のドアは閉まったまま。だけど中に人がいるのが見えるので、大きな声で名乗る。
「宇佐美です。開けてください!」
「どうぞ!」
「立花さん、先に入って!」
重たいドアがゆっくりと開いた。
隙間に押し込むように立花さんを中に入れて、私もそれに続く。
「閉めてください!」
入ってきた時と同じように大きな声で伝えて、私は立花さんに指示を出した。
「とりあえず保健室に行って! 上靴はあとで届けてもらうから! 森永先生、お願いします!」
すぐそばに居てくれた養護教諭に立花さんを任せて、私は玄関内を見まわした。
教頭先生を見つけて、立花さんのお母さんだけを校内に入れるための打ち合わせを試みた。だけど……。
玄関にインターホンの音が響いた。
インターホンを押しているのはおそらく、おかんの彼氏こと、綿貫龍司。
その後ろに、女性がいるのもうっすらと見えた。