Octave~届かない恋、重なる想い~
「教頭先生、お母さんだけ校内に入れてください」
「やってみよう。宇佐美先生はお母さんを誘導して。私がその……内縁のお父さんの相手をするから」
ドアが開き、案の定、母親の彼氏が先に中へ入ってきた。
その場にいた先生方全員が一斉に大きな声で「おはようございます」と挨拶をする。
男はやや驚いたような表情を見せて、それから小さな声で「ういーっす」と頭を下げた。
後ろからおどおどと俯いて入ってきた女性……立花さんのお母さんと、目が合った。
お母さんは深々と頭を下げて、こう言った。
「あの、娘が、ご迷惑をおかけしました。今日は娘も疲れていると思うので、連れて帰りたいのですが」
「連れて帰って、どうするのですか?」
教頭先生が問いかける。
「そんなの保護者の勝手だろう。人の家の事情にまで学校がクビ突っ込むのはおかしくないか」
お母さんに聞いた質問に対して、母親の彼氏が勝手に答えてしまった。
完全に主導権を握られているようだ。どうしよう……。