Octave~届かない恋、重なる想い~

「お子さんは学校で授業を受けなくてはなりません。体調が悪い時は、保健室で休むこともできます」

 教頭先生が穏やかに説得を試みている。

 隣にいた立花さんの担任もそれに同意して、言葉を続ける。

「遅刻・欠席をこれ以上増やさないようにしましょう。ちょうどいい機会なので、お母さんと少し進路のことでお話をしたいのですが、このあとお時間ありますか?」

「え、ええと……」

 立花さんのお母さんが、彼氏の方を見た。顔色を窺っている。

 彼氏はむすっとして、こう言い放った。


「こっちも忙しいんだよ! さっさと亜美を返せ。連れて帰って休ませるって言ってんだ。具合悪い娘の心配して迎えに来てんだから、問題ないだろ!」


 その言葉に、担任がカチンときたらしい。

「私は亜美さんのお母さんと話しています。お母さんはこちらへどうぞ。それから……何とお呼びしたらいいのでしょうか? お忙しい時間にお手数をおかけいたしました。もうお帰りになられても大丈夫です」

 担任なので、当然家族構成は知っている。

 この男が立花家の人間ではないことも。

 つまり、部外者は引っ込んでいろ、ということを、婉曲に伝えている。

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