Octave~届かない恋、重なる想い~
「あの……立花さんのお母さんの彼氏さん、ですよね?」
「ああそうだよ! もうすぐ籍入れるけどな! だから亜美は俺の義理の娘だ文句あっか!」
さっきまで担任のところで刺青をチラ見せしながら息巻いていた男が、今度はこちらへ向かってきた。
私の胸元を掴みそうな勢いで近づき、私を値踏みしているようだ。
落ち着け私。ここで弱みを見せてはいけない。
絶対に大丈夫。ここには『あれ』があるから。それに、いざとなったら守ってもらえる。
「……立花さんは、あなたが怖いそうです。昨夜、私に色々なことを話してくれました。申し遅れましたが、私は昨年度まで立花さんの教科担任をしておりました、宇佐美と申します」
おそらく、電話で私の名前は聞いているだろう。
立花さんが我が家に泊まったことも。
本気で心配していることを解って欲しいと思った。ところが。
「ああ~、あんたがねぇ~。市議会議長さんのお嬢さんだろ。で、今度は婿養子になった旦那が議員さんになったとかいう……こりゃあ面白い!」
下卑た笑いを浮かべながら私を舐め回すように眺めて、それから言った。
「お嬢さん、あんた、善良な市民の俺に向かって、みんなの前で恥をかかせてくれたな」