Octave~届かない恋、重なる想い~
先生方が立花さんのお母さんへ駆け寄った時、男は舌打ちをしながら再び私の方へ。
「宇佐美さんよぉ、あんた、うちの亜美に何を吹き込んだんだ? どうせ俺の悪口だろ? あんたがどこまで知ってるか知らねえけど、亜美もなかなかのモンだからな」
「悪口なんて言ってません。私はただ話を聞いただけです」
「へえ。聞いただけね。その話、全部嘘だったらどうする?」
嘘? 立花さんはおそらくこの男のことを本気で嫌がっている。これは間違いない。
「あんた、おめでたいよなあホント。亜美があんたのこと『ちょろいお嬢さん』って言ってたのは本当だな」
ちょろいお嬢さん? 私が?
私のことを慕ってくれていた、立花さん。
私はそう感じていたけれど、彼女にとって私は都合のいい存在でしかなかったのだろうか。
いや、そんなことはないはず。私は立花さんを信じる。
立花さんとお母さんがDVに遭わないようにするために今何が必要なのか考えよう。
お母さんは先生方の手を借りて立ち上がろうとしたけれど、なかなか立てずにいる。
脚を押さえていて、かなり痛そうだ。
……これで、条件は全て揃った。
「これ以上、私を侮辱するのはやめてください。立花さんのお母さんを傷つけないでください」
男の眼をしっかりと正面から見据えて伝えた。